偽トラウマの解消とか、間違った退行催眠例

トラウマの解消

退行催眠というものはトラウマを解消するために行うものだととかく思われてる節があります。 人の現在抱えてる問題というものは過去のトラウマが原因になっていて、そのトラウマを「再体験」することで何故かその傷が解放され、自動的に癒されて、それに伴って現在の問題も自動的に解決するのだと思われてる方は多いようです。

ところで、トラウマは通常、心的外傷、と言われています。 本来これは単なるストレスや嫌な出来事を指しているわけではありません。 ですが、外傷というくらいですから、原因は外にあるニュアンスはあるのでしょう。

それはともかく、よく単なる、といっては気の毒ですが、過去の嫌な出来事をトラウマだと称して、現在の問題を何でもその(自称)トラウマのせいにしている人達(クライアント)が多いのも事実です。

それはそれとして、ですが、施術者の方がクライアントさんをわざわざそうした記憶にはっきりとある嫌な出来事に誘導して、その嫌な出来事をわざわざあぶり出して蒸し返して再体験させる、といったようなことが、平然と行われているといったようなことをこれまで、数多くのクライアントさんを通して耳にしてきています。

これは思うに、前世療法の火付け役となったあの有名なブライアン・ワイス博士の「前世療法」という小説の影響ではないかと思われる節もあります.

確かにこの小説を読んでいくと、主人公キャサリンは、セッションを重ねるごとに、そのたびごとに、嫌な出来事を数多く思い出しています。そして、精神科医が何もしないでも、勝手にどんどんどんどん症状が改善されて行ってるように書かれています。

おそらく、この小説のこうした点をクローズアップして、過去の嫌な出来事を思い出して再体験すれば、何故かは理由はよくはわからないけれども、トラウマはいつの間にか必然的に解消されて過去の傷も消滅し、その結果として、現在の困っていて自分の思い通りに行ってくれない問題までもがいつの間にか解消されている、と何か錯覚されている方々がクライアントさんの側にも施術者の側にも数多く存在しているように見受けられます。

ですが、これがブライアン・ワイス博士によって行われているヒプノセラピーとはまったく異なることは明らかです。

どこかがどう違うかというと、ワイス博士は、問題の原因となっている原因を探って行っているのに対して、この間違った退行催眠では、わざわざ嫌な出来事をあぶり出している点です。 さらにそれがしばしば記憶にはっきりあることまであぶり出している点です。

このページでは、その一つの具体例をあげておきましょう。
解説はこちらを参照 → 間違いだらけの退行催眠、前世療法

嫌な出来事をわざわざ蒸し返す

催眠誘導ののち、

セラピスト   :さあ、それではこれからあなたが中学生の時のいじめにあっていた時にこれから戻って行きます。 はい、今あなたの前に大きな扉が見えています。 さあ、これからその扉を開けてください。 そこは中学校であなたは周囲からいじめられています。 さあ、今、誰にどんなことをされていますか?

クライアント :何かされてるわけじゃないんです。 無視されてるんです。

セラピスト   :何もされてないんですね。そうでしたか。 それじゃ別にいじめにあっていたというわけじゃなかったんですね?

クライアント :いえ、無視されることがいじめなんです。 毎日こうなんです。

セラピスト   :誰に無視されているんですか? あなたはその人に何て言いましたか?

クライアント :井上さんと神崎さんの二人です。 私は、ちょっとこれ見てって前の日、親戚のおばさんからもらったペンダント見せたんです。

セラピスト   :彼らは、いや彼女らは、かな、それでどうしました?

クライアント :無視して前向いて授業聞いてます。

セラピスト   :今授業中だったんだね?

クライアント :そうです。

セラピスト   :だったら授業聞くのは普通じゃないの?

クライアント :でも、私にだけそうなんです。 隣の千恵美ちゃんなんかの場合だったら、授業無視してしゃべるんですよ、いつも。

セラピスト   :それで?

クライアント :千恵美ちゃん今、私の方見て、くすくす笑ってます。ん、もう腹立つわ。

セラピスト   :あなたは、そこで今、どうしてます?

クライアント :むかついてます。もう、はらわたが煮えくりかえってます。

セラピスト   :怒りが込み上げてきて爆発しそうなんですね?

クライアント :その通りです。

セラピスト   :さあ、その怒り、そのむかつきを今ここでじっくり味わってください。 憎たらしい彼女たちの顔が浮かび上がってきてますね?

クライアント :はい。

セラピスト   :さあ、どんどん感じて! 押し殺さないで。

クライアント :うーーー、もう腹立たしいわ!!

セラピスト   :そう、もっと感じて、その腹立たしさ! ・・・・・・、 さあ、そろそろすっきりしてきましたね?

クライアント :いえ、もう頭切れそうです・・・

セラピスト   :まだまだ再体験できてないようです。 頭がすっきりするまで、その頭が切れそうな感じ、腹の底から煮えくり返る感情を感じて、彼女たちにぶつけてください。

クライアント :うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、もうっ・・・

セラピスト   :さあ、その怒り、思い切って爆発させて、今ここで。

クライアント :キー―――――――――、なめんなよ、てめえら・・・

セラピスト   :さあ、どんどん出して! その怒り。

クライアント :うーーー、げっ、っ っ、具合悪いわ・・・

セラピスト   :さあ、もう、すっきりしましたね?

クライアント :おえっ っ・・・ げーー、げーー、うぎゃー・・・

セラピスト   :いやっ、まだまだ再体験しきれてはいないようです。 もっとどんどんどんどん、その時の感情、十分に味わってください。 まだまだ中途半端なようです。

クライアント :うーーー、おえっ、おえっ・・・

セラピスト   :もっともっと感じて、もっともっと。

クライアント :今、具合悪いです。もう、まいっちゃったわ・・・、 本当に吐きそうです・・・

セラピスト   :さあ、じゃあ、トイレ行って吐いてきてください。

クライアント :すみんません。 じゃ、ちょっと失礼します・・・、・・・

セラピスト   :いやっ、今ここで行くんじゃないですよ。起きてきたらやり直しになっちゃいますからね・・・

クライアント :あっ、そうだったんですか、それは失礼しました。どうしますかね??

セラピスト   :さあ、今度は、もっと酷く無視されていた場面に行きますよーーー。

クライアント :え?? まだやるんですかあ??・・・

セラピスト   :じゃ、先トイレ行ってきてもかまいませんよ。ここで吐かれても困りますから。

クライアント :はい、すみんません。 じゃ、ちょっと行ってきます。

・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとブレイク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

セラピスト   :さあ、また始めますよーーー。 (催眠誘導もどきを始める。)

セラピスト   :さあ、今度は、あなたが中学生の時、クラスの2人や3人じゃなく、もっとずっと多くの人たちから完全に無視されていた時に戻っていきますよーーー。 はい、今あなたの前に大きな扉が見えています。 さあ、これからその扉を開けてください。 そこは中学校であなたはさっきよりもっとひどいいじめをうけています。さあ、今度は、どんな目に遭ってますかーーー?

クライアント :うぐっ、・・・ うぐっ、・・・

セラピスト   :今度も無視されてますかーーー?

クライアント :うぇっ・・・、すみません、トイレまたいいですか?? 今度はなんか下痢しちゃったみたいで・・・

セラピスト   :仕方ありませんねえ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとブレイク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

セラピスト   :ちょっとまだ中途半端ですので、もっと行きますよーー。  (もう催眠誘導もなしに) 最初の場面に戻ります。 はい、1,2,3!

さあ、今、どうなってます?

クライアント :先生が私を当てて、私、困ってます。

セラピスト   :先生は何て言ってますか?

クライアント :「先生の言ったこと聞いてたっ?」って。

セラピスト   :それで?

クライアント :あんたは先生の言うこと聞かないで前の人に何してたの?って。

セラピスト   :そしたら?

クライアント :授業の妨害して良いと思ってんの? だって。

セラピスト   :怒られたんだね? 今どんな気持ち?

クライアント :前の二人も千恵美ちゃんも、ケタケタ笑ってる。 んー、もう腹立つわ。ムカつくわー。

セラピスト :さあ、もっと感じて、その気持ち。

クライアント :んーーー、このくそババア!!!

セラピスト :顔真っ赤になってますね! さあもっと、もっと。 クラスの他のみんなはどうしてますか?

クライアント :みんなクスクス笑ってるのよ。 いつもこうなのよ。

セラピスト :あなたは今、みんなから見離されてるのわかりますか?

クライアント :んーーー、はい。 いつもこうなんです。

セラピスト :さあ、もうちょっとです。 顔が青くなるまで、そこでその孤独感感じていてください。 誰もあなたの味方はいません。 あなたはひとりぼっちです。 そのつらさ、もっともっとかみしめて。 中途半端で止めないで。

クライアント :んーーー、悔しい!!! なんで私だけ・・・

セラピスト :そう、その調子で。 さあもっと、もっと。

クライアント :んぎゃーーーー、ぺっ!

セラピスト :つば吐きましたね。この部屋では吐かないでのみ込んで。

クライアント :んぎゃーーーー、おぇっ・・・、ごほっ、ごほっ・・・

セラピスト :さあ、もうちょっと。 周囲のみんなの表情は見えるかな?

クライアント :おぎゃーーーー、おぎゃーーーー、

セラピスト :誰か生まれたの??

クライアント :うげっ、うげっ、・・・

セラピスト :血、吐いたね?

クライアント : はえ・・・



さあ、この退行催眠と称するものでは、わざわざ「いじめにあっていた時」と嫌な場面を指定して退行させています。

そこで現れてきた場面というのはまさしくその時のいじめられていた時のその場面そのものでした。 ですが、はたしてそれは、そもそも思い出した記憶だったのでしょうか??

上記のやりとりだけからでは必ずしも正確なところはわかりませんが、そこには「新たに」思い出した記憶というものは一つもなさそうで、どちらかというと全部が全部、普段から覚えている、普段から記憶にあるもののように思われないでしょうか。

まあ、その辺がどうだったのかは本人に聞いてみれば分かるわけですが、もしあなたがどこかで退行催眠と称するものを受けたことがあるのでしたら、あなたご自身の場合はどうだったのかはご自身でわかるはずです。

まあ、出てきた場面が本当に思い出した記憶だったのか、それとも普段から記憶にある記憶だったのかは、ともかく、どっちの場合でも、このように、そのいじめられている場面をあぶり出して再体験させたからといって、何かが解消されることはありません。 そんな道理はありません。

それどころか、その時の辛さ、苦しさはエネルギーを伴って、現在の本人に襲い掛かってくることになります。 そして、辛さ、苦しさは以前にも増して増幅されてしまうのが落ちです。

これはセラピーでもなんでもないわけです。

ですが、世の中には、嫌な出来事を再体験することがトラウマ解消だ、なんて何か勘違いされてる方々が多いせいか、上記のようなことが横行されているようです。ここまで極端ではないにしても。

もし、あなたが嫌なことをわざわざ蒸し返してもらって、それを再体験したいのでしたら、催眠療法士(と称する)人に、前もってその旨を伝えておくと良いのかもしれません。 一方、あなたが、そんなことを蒸し返してもらいたくない場合、催眠療法士(と称する)人に、その旨を伝えて、はたしてセッションがどのように展開して行くかは、なかなか興味があるところかもしれません。