退行催眠の実際

退行催眠は年齢を遡る

退行催眠というのは、年齢を遡って、過去の記憶を思い出す催眠です。

退行催眠も世間一般によく誤解されているようです。
たとえば、年齢を遡って幼少期などのトラウマの記憶を思い出して再体験すれば、何故か理由はわからないけど、終わってみるとそれで何故かは分からないけど、傷が癒されて現在の問題もすっきり解消されて生まれ変われる、とかいう風にです。 世の中には実に安易な期待をされてる方がいるものです。

確かに退行催眠は時として催眠療法のセラピーで用いる技法のひとつですが、そのように(どのように??)用いるものではありません。

退行催眠を行う場合というのは主には、現在その方が抱え込んでいる問題の原因がどこにあるのかよく分からなくて、その原因(がもしあるならば)、それを探り出す場合なのです。 (原因を探り当てればそれで即、問題が解決されるとは限りませんが。)

こう言うと、問題の原因は何が何でも思い出す必要があるものなんだ、と受け取られる方々はいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそういう意味ではありません。

原因がどこかにあるにせよどこにもないにせよ、原因に触れることなく問題を解決させられるほうが、むしろ普通、と申しますか、実際上は圧倒的にその場合が多いのです。

その話は今ここでは置いておくとして、原因があるにせよないにせよ、退行催眠は、催眠中にそうした指示を行って退行するのですが、大きく分けて主に2つの退行のさせ方があります。

一つは年齢を(現在から)少しづつ少しづつさかのぼって最終的に目的の(年齢の)場面に戻らせるやり方、もう一つは、そうした時間系列は無視してふっ飛ばして、いきなり目的の場面に戻すやり方です。 どっちの方法を用いるにしても、本質的な違いはありません。

以下はその後者の一例です。クライアントさんは、20代前半の女性、自分が社会で上手く適応できないのは、自分が幼い時に母親が自分を虐待していたからなのではなかろうかと訴えていました。

そればかりでなくて、何日か前には母親を問い詰めたら、虐待をしていたことを認めたと言いました。そして結局、母親は彼女に謝った、と言っていました。 本人は自信満々に、自分が社会に適応して上手くやっていけない原因は母親の虐待にあるのだと強く主張していました。

次の場面は、彼女が社会で上手く適応できなくなった原因を探るために行った退行催眠です。 決して、虐待等々の場面をわざわざ思い出させたわけではありません。

さあ、そこで彼女の目の前に現れてきた場面とは、果たしてどのような場面だったでしょうか??

退行催眠実施例

適切な催眠誘導に続いて、目的地点へ誘導後、

セラピスト  : 今、何が見えますか?
クライアント  : ・・・いもうとがいます・・・
セラピスト  : 他にも誰かそこにいますか?
クライアント  : ・・・おかあさんもいます・・・
セラピスト  : 他には?
クライアント  : ・・・いません・・・
セラピスト  : そこはどこですか? 今どこにいますか?
クライアント  : ・・・玄関です・・・
セラピスト  : どこの玄関ですか?
クライアント  : ・・・おうちの玄関です・・・
セラピスト  : 自分の家の玄関にいるんですね? おかあさんといもうとさんといっしょに。
クライアント  : ・・・うん・・・
セラピスト  : お母さんは今、どんな格好してるかな?
クライアント  : ・・・ちょうちょのエプロンしてるの・・・
セラピスト  : エプロンに蝶が描かれてるの?
クライアント  : ・・・うん・・・
セラピスト  : 今、3人で玄関で何してるの?
クライアント  : ・・・これから学校に行くの・・・
セラピスト  : いもうとさんとふたりで小学校行くの?
クライアント  : ・・・いもうとはようちえん・・・
セラピスト  : 毎あさ、いつも一緒に行ってるの?
クライアント  : ・・・うん・・・
セラピスト  : 今日もこれから二人で一緒に行くとこ?
クライアント  : ・・・・・・
セラピスト  : どうしたの? 何かあったの?
クライアント  : ・・・いもうとが泣いてるの、もう・・・
セラピスト  : いもうとさん、どうしたの? 何かあったの?
クライアント  : ・・・おかあさん、おかあさんって呼んでるの、お腹おさえて・・・
セラピスト  : 食事にでもあたったのかな??
クライアント  : ・・・わからない・・・
セラピスト  : いもうとさん、何か言ってる??
クライアント  : ・・・今、吐いた・・・
セラピスト  : いもうとさん、食べたものもどしたの?
クライアント  : ・・・うん、ゲーゲーやってる・・・
セラピスト  : おかあさんはどうしてるの?
クライアント  : ・・・おかあさん、いもうとばかりかわいいの・・・
セラピスト  : そりゃあ、いもうとさん、具合悪いんだもんねえ、おかあさんも心配だよねえ。
クライアント  : ・・・おかあさん、いもうとトイレ連れてった・・・
セラピスト  : いもうとさん、大丈夫そうかな?
クライアント  : ・・・おかあさん、わたしのこと、ぜんぜんみてくれないの・・・
セラピスト  : おかあさん、どうしてるかな?
クライアント  : ・・・おかあさん、いもうとばかりかわいいの、もう・・・ちきしょう・・・
セラピスト  : あなたも体具合、悪いのかな?
クライアント  : ・・・私はつよいもん・・・
セラピスト  : 今日はいもうとさんは幼稚園、行けそうもないかな?
クライアント  : ・・・しらない、いまトイレでゲーゲーやってる・・・
セラピスト  : おかあさん、どうしてるかな?
クライアント  : ・・・おかあさん、わたしのこと、ぜんぜんみてくれないの・・・ ん、もう。
セラピスト  : おかあさんに用事あるの?
クライアント  : ・・・べつに・・・
セラピスト  : いもうとさん、今どうなったかな?
クライアント  : ・・・うなってる。 ・・・
セラピスト  : おかあさん、今どうしてる?
クライアント  : ・・・いもうとにだいじょうぶだいじょうぶって、さっきから言ってるけど、私にはなにも・・・、・・・・・・・、今、いもうと今日、休むから、ひとりで行ってって言ってる・・・
セラピスト  : おかあさん、妹さん具合悪かったから、妹さんばかり今、かまっていたんだね。
クライアント  : ・・・ ・・・
セラピスト  : 一人で学校行けるね?
クライアント  : ・・・そりゃ行けるけど、・・・けど・・・
セラピスト  : お母さん、あなたはもう大きいので、もうかまってる必要なかったんだね?
クライアント  : ・・・・・・


さて、この例では、現れてきた場面、そこでは一見して虐待は何ひとつとして行われてはいませんでした。

あなたはこのことに何か疑問に持たれたでしょうか??

何か妙な感じをお持ちになったでしょうか??

繰り返しますが、このクライアントさんは(催眠前に)、自分が社会に適応して上手くやっていけない原因は母親の虐待だと主張していたわけですよ。 そして、その原因を探って行ったわけなのですよ。

ですが、思い出した場面は虐待とは無縁に見える場面でした。

では、この退行催眠は失敗だったのでしょうか??

それとも、この場面の後にでも、虐待の場面が続くのでしょうか??

いいえ、それは違います。

思い出したのはあくまで、その「原因」の場面であることを忘れてはいけません。 そう、虐待の原因ではありませんよ、社会に適応して上手くやっていけない原因の場面ですよ。 その相談内容の解決の手掛かりになる場面に誘導したわけですよ。

そして、潜在意識が連れて行ってくれたその場面、それは(本人が主張するような)虐待とは無縁だったということです。

では、この思い出した場面では、いったい何が原因となっていたというのでしょうか??

よく注意してみれば、原因は虐待とは全く違うところにあったことが分かると思います。

このクライアントさん、幼い小学生の子供だった時のクライアントさんは、何故か虐待を受けていたと感じていたのです。 このことだけは事実です。 虐待じゃなくて、そう感じていたことが、ですよ。

幼い本人は、お母さんが自分をまったくかまってはくれないことを虐待だと感じていたわけです。

そして、それを思い出している本人の顕在意識が、さらに言葉でその時の状況を語ってくれているわけです。

潜在意識にある記憶が顕在意識を通して自覚できているのです。

また、それと同時に、通常との顕在意識も普通に働いて、(大人の意識で)幼い自分の意識を自覚できているわけなのです。 (もっとも、これに関してはこのやりとりだけからでは見えてきてはいませんが。)

単に昔の時のことを思い出す場合なら、それは現在の顕在意識が思い出しているにすぎません。 そこには潜在意識からこみ上げてくるその時の意識や感情が蘇ることはありません。 それは決して潜在意識に蓄えられている記憶が蘇って出てきているわけではありません。

ですが、潜在意識から引き出された記憶なので、例えば、その時お母さんが蝶々のエプロンしてる、なんていう記憶までもが、その時の目線で出てくるのです。

単に忘れていた記憶を思い出した時の状態とは基本的に異なるのです。

その時の(潜在意識から湧き出る)意識と今の(顕在)意識とが同時に働いて、それが今ここで起きているような感覚、がそこにあるのです。

これが退行催眠で思い出す記憶の特徴です。

このように、何とも言葉には表しにくい、通常、記憶を思い出した時のような感覚ではない感覚が退行催眠にはあるものです。 もっとも普通それを、催眠に入ってる感覚と感じる人はいませんが。

確かにこの場面では、お母さんは彼女をまるで無視しているように見えるかもしれません。 少なくとも、その時、彼女は自分でそう思っていました。(幼いので虐待なんて言葉は出てはきませんが。)

そしてその時の彼女は、それを虐待だと感じていたのです。 まあ、もっとも大人が認識する虐待とはちょっと違うかもしれませんが。

そしてそれを同時に観ている成長した今の大人の顕在意識は、それは虐待なんかではないし、あの時の母親は、妹を構うのに忙しくて、大きなお姉ちゃんの自分をいちいち構ってる余裕なんてなかっただけだったんだと、(通常は)認識できるものです。

そうしたより客観的な認識ができるからこそ、その幼児の時、自分が思っていたことは実は本当の事ではなくて、お母さんは自分を虐待なんかしていたわけではなかったし、そんなつもりもなかったんだ、むしろ大きなお姉ちゃんと見なしていてくれたんだ、と誤解が解け、認識が正されるわけです。

幼少期への退行催眠の場合、多くの場合で、このように問題の原因は実は幼い頃に自分が何か間違った思い込みをしていたことに気が付くものです。 もっとも、その時幼い自分がそのように曲解してしまったことも幼かったのでやむを得なかったし、責任があるとも言えないとはいうものの、その間違った思い込みに捕らわれていたからこそ、現在の問題も発生しているんだと気が付く機会が得られるわけです。

それというのも、その時の状況(思い出した記憶)を見ている現在の(顕在)意識が、その時よりはるかに成長している大人の意識だからです。 これは前世退行の場合には一般には言えることではありません。

 

 

現在、この記事はまだ書きかけです。